日曜日のなのはな

北極を探しにいく・日曜日更新+気まぐれ

「奇書の世界史」で覆された常識の概念

先日DMMブックスで、初回購入100冊まで70%オフという驚愕のセールをやっていた。

まんまと躍らされ、漫画含めて79冊:計14,052円分を購入してしまった私だが、そのうちの1冊を読み終わった。

「奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語」 三崎 律日[ビジネス書] - KADOKAWA

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変な歴史とかオカルトなんかが好きな私の、嗜好丸出しな選出。実用書買うつもりだったのにおかしいな…

でも、とても読みやすくて面白かった。

この本では、全部で11冊の'奇書'と番外編の3冊が取り上げられている。これらの奇書は、ひとりの男性が生涯をかけて書いた「世界最長のファンタジー小説」から、物理学界を騒がせた「フラーレンによる52Kでの超伝導」という論文まで、時代もジャンルも様々。

'奇書'として取り上げられている理由も違う。実際にあった(と思われる)事実なのに、まるでドラマのような経緯にワクワクした。

どれも面白かったが、本書を象徴していると思ったのは、この奇書だった。

「軟膏を拭うスポンジ」「そのスポンジを絞り上げる」

これは17世紀のイギリスで起きた「武器軟膏論争」のなかで生まれた2本の論文のこと。

「武器軟膏」は17世紀頃に研究されていた治療法だ。刃物でケガをした場合、傷を負わせた刃物や武器の方に軟膏を塗ることで、傷口を治療できるという信じられない治療法である。

この治療法を批判したのが、異端審門官ウィリアム・フォスターの「軟膏を拭うスポンジ」だった。これに反論した論文が、医師ロバート・フラッドの「そのスポンジを絞り上げる」だ。

そもそも武器軟膏という考えがあったことに笑う。今の私たちからみたら信じられない。(強いていうなら、プラシーボ効果はあるのかもしれない)

でも当時の人たちは、これを本気で議論していた。そして議論はどちらかというと、科学的な観点よりも宗教的な事情が焦点にあった。フォスターが武器軟膏を批判した理由は、黒魔術を告発するためだったし、フラッドは医師のプライドを保つため、当時の医学に欠かせなかった占星術の知識をもって反論した。

一方で、どう考えても怪しい武器軟膏は、実験結果によって効果が立証されてもいた。ただ、実際は、実験で比較された一般の治療法がかなり不潔な方法だったらしい。そんな一般治療法よりも、傷口に何も塗らない武器軟膏の方が相対的に治りが早かったというからくり。

まとめると何から何までおかしな議論だった。科学ではなく、宗教が全ての根拠だった当時の議論。そして論理性に欠ける実験。でもおかしいと感じるのは、今の私達が科学を知り、論理的思考を持ってるからだ。

もしかしたらこれからの将来、今の常識を根底から覆すような発見があるかもしれない。あるいは、世の中でメジャーとされている思考法や主義が、違うものに取って代わられるかもしれない。

そのとき、武器軟膏を笑った私たちを、未来の人間は笑うかもしれないな、と思った。

 

こんな感じで奇書にまつわるエピソードが書かれてます。

個人的には番外編の「物の本質について」にすごく感銘を受けたのだけど、書ききれなかった…紀元前に、原子の存在を把握していた人がいたってすごくない?ロマンを感じる。