日曜日のなのはな

北極を探しにいく・日曜日更新+気まぐれ

理想の華金

先週の金曜日、仕事が早く終わって私は途方に暮れていた。

家に帰っても今日はひとり。相方は飲み会に行っている。かといって社内を見渡してもみんな忙しそう。たまたま私の仕事に空白が生まれただけとはわかっていても、こういう夜は自分ひとりを置いて世界が回っている気がして寂しい。

いや、こんなときこそ寂しさをエンジンに冒険しよう。そう思い立ち、常連になれそうな店を探しに行くことにした。

選んだのは、前から気になっていたビストロっぽいお店。ビルの2階にこぢんまりとあるので、ドアを開けるまで様子がわからずドキドキする。

でも入ってみると、ギンガムチェックのランチョンマットが可愛いアットホームな空気。ホッとした。店員さんにひとりだと言うと、1つだけ空いていたカウンターの席に案内された。

「両隣りもおひとりさまですよ」とマスターが言う。どちらも女性の方だ。

左の人はイヤフォンを付けて激しくうなずいており、テレビ電話をしているようだ。右の人は静かにワインを飲んでいる。

おひとりさま同士で並べられたということは、隣の人とお喋りするチャンスではないか?ただ、切り出しかたがわからない。まずは右の人に「メニュー借りていいですか?」と聞いてみた。

すると右の方が私に話しかけてくれて、気づいたら3人でお喋りしていた。(何故)

私が初めて、たった一人で隣のお客さんとお喋りできた記念すべき瞬間である。めでたい。

二人に色々聞いてみた。どちらもこのお店の常連さんだけど、お互いは初めましてとのこと。左の人が聴いていたのは、実は小田切ヒロのインスタライブだった。相当なファンらしい。お酒をよく飲み、マスターにかなり親しげに絡むその人には、我が道を行く!というエネルギーを感じた。3センチくらいしかない超眉上の前髪がすごく似合っていて、50代と聞いてびっくりした。

右の人もほぼ同い年。その人は可憐な雰囲気をまとっており、末っ子と聞いて妙に納得した。話を聞いていても、守ってあげなきゃ!と思わせられる。私が言うのも変だけど。でも営業だったときがあり、数年前まで東京にいたその人とは共通の話題も多くて盛り上がった。

ときどき話に参加するマスターは笑顔がチャーミングなおじちゃんだし、歳の離れた奥さまはとても綺麗だ。なんだかとても楽しくなって、軽く1杯だけ呑むはずだったのにワインを3杯呑んでしまった。

常連になれそうなお店を探し、あわよくば誰かと思いきり喋れないかと来てみたが、あまりにも理想的な空間に行き着いたことに私は感動していた。お店を出ても、胸のあたりがぽかぽかしている。最高に素敵な華金だった。

こっちに来てから、お店で隣の人と話す文化がもっと身近になったと感じる。でも通常運転の私だったら、ここまで来れてなかったかもしれない。普段の人見知りな私だったら、隣の人ともマスターともこんなに沢山話そうと思わなかったかも。

ちょっぴり寂しい気持ちが、私をここまで連れてきてくれた。そう思うと、寂しさも悪くない。

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私ってごはんを美味しくなさそうに撮る天才だと思う。本当はとても美味しかったです。