年明けからずっと、ポーラ美術館に行きたかった。
箱根の、しかも主な観光地とも少し離れているポーラ美術館に行こうとすると、ちょっとした旅になる。気軽に行けないので先延ばしにしていたが、冬のうちに行かねば!と友人に連絡して付き合ってもらった。
ポーラ美術館
早朝から新幹線、登山バスと乗り継ぎ着いた美術館は濃い霧に包まれていた。半分地下に埋まったような、前衛的なガラス張りの建物に入るだけでワクワクする。
ポーラ美術館では、去年から収蔵品に加えて『ロニ・ホーン展』をやっていた。アメリカ出身の現代芸術家の個展だ。今年の3月末までやっているらしい。
先週積もった雪と霧で、真っ白になった森をバックに見るロニ・ホーンの作品は透明感が増していた。全て鋳造ガラスでできた作品は、まるで水を湛えているようにしか見えない。しんとした美しさに浄化された。
ただ、これが森の中にあると貞子が出てきそうに見えてしまう。
アイスランドで撮影した写真が並ぶ『円周率』。一見ランダムな写真の羅列が、順番に見ていくと映画のワンカットのように物語を紡いでいく。
『ロニ・ホーン展』のほか、3つの展示を見た。ポーラ美術館が収蔵するモネのシリーズは色鮮やかで温かい。眩しい光が注ぐ作品を見ると、夏が少し恋しくなった。友人と二人で、近づいたり遠ざかったりしながらじっくり見る。
美術館の外に出れば、森の中にも常設の作品がたくさんある。自然のなかに人工物が突如現れる微妙な違和感って、面白いしワクワクした。
- 入館料1,800円 ※ローチケや小田急トラベルで買うと200円引きになります
かま家
ひとつひとつの作品をしっかり見ていたら、3時間近く経ってしまった。寝坊して朝食を食べそびれた私は腹ペコだ。前から気になっていた「かま家」に向かうことにした。美術館を出て、山道を歩く。
「かま家」は釜めしの店だ。ご飯を炊いている間に併設のお風呂に入ることができるというのが魅力的で、どうしても行きたかった。そもそも冬に箱根に行きたかった理由は、寒いほうがかま家の良さを味わえると思ったからだ。
年季が入った平家のお店は、おばあちゃんのお家に来たような懐かしさを感じた。そして実際に働いているのもおばあちゃんズである。
私たちは畳の部屋の一番奥に通された。メニューは7種類の釜飯。どれも1,580円だ。友人と相談し、しゃけの親子釜めしと穴子釜めしを頼んで半分こすることにした。
注文すると釜が運ばれてきて、火をつけてもらう。炊き上がるまでの40分をタイマーで測ってもらうと、私たちはお風呂に向かった。
脱衣所も昭和の雰囲気漂う古さで、少し緊張してしまう。一回、客の男性が間違えてドアを開けてきてびびった。私たちが服を着てたからよかったけども…
お風呂は二人で入ってちょうどいいくらいの、民宿のお風呂みたいな狭いお風呂だった。でも、お湯は硫黄がふわりと香る白濁のちゃんとした温泉だ。寒さで凍えた身体がほぐれていく。非常に気持ちよかった。
お昼時で繁盛してたにもかかわらず、お風呂は私達と1組の親子しかいなかった。古めかしいお風呂にはやはり抵抗を感じるのだろうか?古いもの好きな私には楽しかったが。
ホカホカの体で席に戻ると、釜めしが出来上がっていた。せーので開けると、なんとも美味しそうなご飯が湯気を出す。
おかずと味噌汁、お漬物もついてくる。私は無心で食べた。薄味の炊き込みご飯が心身に沁み渡るおいしさだった。これぞ日本の宝。米と味噌汁があれば、私は生きていける。
食べ終わると熱いほうじ茶を飲み、友人と何気ない話をしながらぼーっとしていた。今ここで横になったら一瞬で寝れるな、なんて考えながら。
ただ、寝るわけにはいかない。畳に名残惜しさを感じながら、私たちは店を出た。
- 釜めし:1,580円
- お風呂代:750円
- シャンプー、リンス、ボディソープ有
- ドライヤー有
- タオルは100円で購入可
ロマンスカー
帰りは登山バスから強羅で箱根登山鉄道に乗り換え、箱根湯本に向かう。山沿いや鉄橋を渡る登山鉄道はアトラクション感があって楽しい。
箱根湯本に着いたにもかかわらず、眠りこけている女の子2人組がいたので、窓をコンコン叩いて起こしてあげた。我ながら、私達だとバレないように上手く起こせたものである。
ロマンスカーの時間までは余裕があったので、箱根湯本のカフェで過ごす。湯葉と豆腐のぜんざいを食べていると、雨が降ってきた。やっぱり私たちは雨女なのかもしれない。
17時になったので、ロマンスカーの乗り場に向かった。
みんなが写真を撮っていたので何だろうと思っていたら、この車種が来月で引退するらしい。
車内は、そんな長年選手とは思えないほど綺麗だった。
ロマンスカーを使うと明らかに時間がかかるのだが、箱根に行くならやっぱり乗りたくなってしまう。まず、名前が良いよね。
ぜんざいでお腹いっぱいになってしまった私たちは駅弁を食べることもなかったけど、乗っているだけで楽しかった。帰る頃には雨があがっていた。
冬の箱根は寒かったけど、家に着くとなぜかぽかぽかしていた。身体からほのかに硫黄の香りがする。美術と温泉、友人との時間で癒された休日だった。