誰かと昼食を食べながら上手く笑える自信がなくて、逃げるようにオフィスを出てきた。
ついさっき、会議室で部長から告げられた事実が鉛のように肩に重く、のしかかる。とりあえずどこかで昼食を食べなければと歩き続けるけど、看板に書かれたメニューが頭に入ってこなくて彷徨ってしまう。
考えるのが面倒になって、ふと目についた喫茶店に入った。レジでお金を払う指先の感覚が、いつもより鈍い。
あれ、最後に会話したのはいつだっけ。昨日は社内のシステムでしかやりとりしなかった。最近できたシステム上での、味気ないメッセージ。あの後、対応してくれてありがとうございますと返信しようと思っていたのに、まだ返信していない。
直接話したのは先週の計上処理でばたついたときか。あの日は確か電話で話した。それから声を聞いていない。
先月あたりからずっとテレワークをしていて、何でだろう?と思っていた。心のどこかで少し引っかかっていた。でも、今までもそういうことがあったからあえて聞くことをしなかった。
聞けばよかった。昨日私が電話をかけていたら何か変わっていたんだろうか。たったひとことでも声をかけたら、少しでも思い留めることが、できたんだろうか。
冷泉公園、まだ一緒に行っていない。大好きだと言っていた番組のあみだくじイベントを見にいく約束。行きたかった。一度頓挫してしまったあの約束をもう一度取りつけていたら、何かが変わっていただろうか。
もう少し、ほんの少しだけ、手を差し伸べていたら。後悔ばかりが渦巻く。
たとえそうしたとしても、何も変わらなかったかもしれない。事情を知らないただの同僚の私が、できることなんて何もなかったかもしれない。でも気軽な関係性だからこそ、何かできることがあったのかもしれない。こんな私だから話せることが、もしかしたらあったかもしれない。
どんな気持ちで昨日の夜を過ごしていたんだろう。何を考えていたのだろう。未来が見えなくなってしまったのだろう。考えたくないのにいろんなことを想像してしまって、苦しくて涙が出る。
それでも私のお腹は空くし、これからご飯も食べる。昼休みが終われば仕事もする。私は自分の生活を続ける。それはなにも悪くないことだ。
ただ、こんな無責任な涙を流してしまう自分が情けない。何も知らなかったくせに。何もできなかったくせに。情けない。
ただ、悲しい。
喫茶店のランチセットは割高で、出てきたサンドイッチも小さかった。でもその量の少なさが今はありがたい。
そろそろ、お昼休みが終わる。