日曜日のなのはな

北極を探しにいく・日曜日更新+気まぐれ

私の好きな絵画10選

はてなブログ10周年特別お題「好きな◯◯10選

私が初めて美術展というものに行ったのは、小学校2年のときだったと思う。その日は音楽会の代休で、母と二人でデパートの上層階で開催していた山下清展を観にいった。オシャレなお店でランチを食べたのも、少し大人になったような気がして嬉しかったのを覚えている。

大人になってからは、美術史を少し齧って美術館に行ってみたりもした。画家の生き様や描かれた時代の世相を知ると、絵に隠れた物語を知ることができてもっと楽しい。でも結局、一番根底にあるのは自分が「何となく惹かれる」「何となく好き」という感情だ。それでもいいと思う。

そんな、私が好きな画家の「何となく惹かれる」作品10選を紹介したい。

シャガールエッフェル塔の若い夫婦』

シャガールは20世紀のロシア出身のユダヤ人画家。パリで活動した。第二次世界大戦時にナチスによるユダヤ人迫害から逃れるなど、暗く過酷な時代を生きた人だ。でも一方で妻ベラを一途に愛し、愛や結婚をテーマにした作品をたくさん残している。

私が昔から好きな『エッフェル塔の若い夫婦』もそんな作品のひとつだ。中学で美術部に所属していたとき、この絵を模写したことがあるが、顧問の先生から「この絵は赤が多く見えるけど、実はシャガールに特徴的な愁いをおびた青が利いている。それを表現しないといけない」とアドバイスをもらい、めちゃくちゃ苦戦した記憶がある。でもその青こそが、シャガールの生きた時代の悲しみを反映しているのかもしれない。

f:id:chan_0929soba:20211123162840j:image

クリムト『女の三世代』

19世紀末、オーストリア・ウィーンで活躍したクリムトは知っている人も多いだろう。けっこう活動的な人で、保守的な美術家組合に反抗し、ウィーン分離派という団体を結成したりした。愛や性、生死をテーマに描いたクリムトの作品は女性の絵が多いが、クリムトが女好きなことを知れば頷ける(多い時で15人くらいの女性が家に居候してたらしい)。

でもクリムトが描く女性たちはみんな美しくて艶やかで、自信に溢れているから好きだ。そのなかで『女の三世代』は女性の美しさとともに”老い”も生々しく描かれている。少しギョッとするけど、老いていく姿もまた美しいものとして肯定されているような感じがする。

f:id:chan_0929soba:20211123170232j:image

ベラスケス『バリェーカスの少年』

ベラスケスの『バリェーカスの少年』をみたとき思ったのは「この人めちゃくちゃ絵上手い」だった(当たり前だが)。その展覧会では同じ時代の芸術家たちの絵画が並んでいたのだけど、ベラスケスの描く人物画は群を抜いていた。まるで生きているような表情だったからだ。

17世紀のスペインで宮廷画家として活躍したベラスケス。宮廷画は、表情よりも王家の威厳を表現することが一番重視されていたんじゃないかと思う。実際、人形みたいな顔の絵が多い。そんな時代に人間味ある生き生きとした表情を描いたベラスケスは、時代の先をいっていたのだと感銘を受けた。

f:id:chan_0929soba:20211123162904j:image

ボナール『逆光の中の裸婦』

ボナールは19世紀~20世紀のフランスの画家だ。この人もまた愛妻家で、妻マルトの絵を多く描いた。マルトはお風呂好きで、一日の多くの時間をお風呂で過ごしていたらしい。そんな入浴中のマルトや普段の食卓をカラフルに描くボナールの作品は、見ていると気持ちが明るくなる。日常が愛おしくなる。

ボナールの展覧会には一度行ったことがあるが『逆光の中の裸婦』は展示されていなかった。入浴後なのか、マルトが部屋の中で日の光を浴びているかのような絵だ。部屋を満たす黄金色の光が美しくて、陰影がドラマチックなこの絵の実物をみてみたい。いつか来日してくれることを願っている。

f:id:chan_0929soba:20211123162915j:image

藤田嗣治『カフェ』

日本に生まれた藤田嗣治は、レオナール・ツグハル・フジタとしてパリで活躍した20世紀の画家だ。女性と猫をたくさん描き、特に女性の「乳白色の肌」は独特の質感があって美しい。

下積み生活を経て、愛称がつくぐらいパリの大人気画家となった藤田嗣治。でも第二次世界大戦をきっかけに余儀なく日本へ帰国すると陸軍美術協会理事長に任命され、戦争画を製作することになる。それが原因で終戦後には「戦争協力者」と批判されることもあり、晩年はパリへ帰化し、生涯を終えた。

そんな藤田嗣治の印象的な作品は『カフェ』だ。終戦後、日本からパリへ向かう途中に滞在したニューヨークで描いたこの作品。書き損じた手紙の前で物思いに耽る女性の姿には、パリへの郷愁の念が投影されているという。激動の時代に翻弄された藤田嗣治の心情をおもうと、胸に込み上げるものがある。

f:id:chan_0929soba:20211123162924j:image

吉田博『渓流』

ある日Twitterを眺めていたら、ふと流れてきた一枚の絵に目を奪われた。それが吉田博の『渓流』だった。今にも轟音が聞こえてきそうな、滝の波しぶきを一面に描いたこの作品は、版画と思えない緻密さだ。実物をみると想像を超える大きさで、二度驚いた。このサイズにこの細かさで木版を掘ったのかと考えると、気が遠くなる。

吉田博は明治~昭和の時代の代表的な木版画家。山登りや海外旅行が大好きで、アメリカの山々を描いた『米国』シリーズ、『欧州』シリーズ、さらには『印度と東南アジア』シリーズもある。どれもため息の出るような美しい風景で、心が浄化される。印刷したら褪せてしまう、鮮やかな色彩をぜひ実物で堪能してほしい。

f:id:chan_0929soba:20211123162934j:image

ホドラー『ミューレンからみたユングフラウ山』

ホドラーは、クリムトと並んで世紀末芸術の巨匠といわれたスイスの画家だ。幼い頃に家族を次々と結核で亡くし、貧困にも苦しんだホドラーの作品は、”死”や”夜”をテーマにしたものが多い。エジプト美術にも影響を受けたようで、女性が一列に並んで立っている儀式っぽい絵も多い。

でもホドラーで私が好きなのは、風景画だ。『ミューレンからみたユングフラウ山』は力強い筆致で描かれた山肌や、ハッとするような真っ青の空がとてもいい。この鮮やかさはどこから来たんだろうと思ったら、スペインで身に着けたものだと知って納得した。緻密な吉田博の版画とはまた違う、壮大な自然を感じられる魅力がある。

f:id:chan_0929soba:20211123165250j:image

マネ『フォリー=ベルジェールのバー』

モネと名前が似ているマネは、19世紀のフランスで活躍した印象派の画家だ。でも作風はモネと全然違う。黒を重要な色としてたくさん使っているのが特徴で、ピリッと効いたその黒が個人的にはすごくオシャレだと思う。

明らかに娼婦を描いている『草上の昼食』や『オランピア』で物議を醸したマネはアバンギャルドな人の印象があるけど、社会の有り様をリアルに描きたかっただけなのかもしれない。遺作となった『フォリー=ベルジェールのバー』も、貧困層から富裕層まで様々な階級が集まるミュージックホールを描くことで、当時のパリの縮図を表わした。

実は娼婦でもあったバーメイドの孤独な表情に視線を集中させる仕掛けや、左上に足だけが描かれてい理由など、調べるほど奥深い作品だと思う。

f:id:chan_0929soba:20211123163003j:image

ホッパー『ナイトホークス』

まだ実際に作品を観たことはないが、いつか観たい画家のひとりがホッパーだ。20世紀のアメリカの画家で、40歳を超えるまで画家としての成果がなかなか実らず、長く苦労した人である。

ホッパーが描いたのは、1900年代半ばのアメリカの日常風景だ。人々の生活が発展していく一方で、どこか孤独感の漂う都会や郊外の街角を描いた作品には、なぜか痛いほどの懐かしさを感じる。私が生まれた故郷とは時代も場所も違うのに、なぜだろう。代表作の『ナイトホークス』をみてそんな懐かしさを感じるのは、私だけじゃないと思う。

f:id:chan_0929soba:20211123163255j:image

東山魁夷山雲濤声』

最後は昭和を代表する日本画家、東山魁夷を紹介したい。文化勲章を受賞したこともあり、輝かしい経歴をもつ東山魁夷は日本の風景画を多く描いた。

山や森を描く東山魁夷のタッチは独特で、美しい群青は「静謐」という言葉がぴったりだと思う。私が一番好きなのは、唐招提寺の障壁画『山雲濤声』だ。白波が立っては岩にぶつかる日本海と、霧が立ち込める山並みを描いた作品。鑑真が見ることのできなかった日本の風景を描いたという。

湿度さえ感じられる山の風景は、西洋画にない安心感というか、肌に合う感覚があってとても落ち着く。

f:id:chan_0929soba:20211123163307j:image

以上、私の好きな画家の作品10選でした。

私が、美術館にきて良かったと一番実感する瞬間がある。お土産店に入ったときだ。印刷されたポストカードや図録をみると、本物の輝きはなににも代えられない、といつも思う。

世界にはまだまだ見たことのない、知らない作品がたくさんある。どこでも自由に飛び回れる時がまた来たら観にいきたい。

長くなったけど最後に江國香織さんが「好きな絵画」について語っている本を紹介する。ひとつひとつの作品に対する豊かな感性と表現力が素晴らしくて、大好きな1冊だ。美術が好きな人にはぜひ読んでほしい。

www.amazon.co.jp