今週のお題「100万円あったら」
先日、相方と街を歩いた。相方は買い物が好きだ。そしてなぜか、私に買い物をさせようとする。私は決まって、何も買わないのだけど。
その日は「私の時計を見にいこう」と言って、時計屋さんに連れていかれた。
私にはすでに、愛用している時計がある。両親から大学の入学祝いにもらったMARC BY MARC JACOBSの腕時計と、相方からもらったeteの腕時計だ。
これは余談だが、MARC BY MARC JACOBSというブランドは、今はもうない。MARC JACOBSのセカンドラインとして展開していたのが、4〜5年前に統合されてしまった。そのプレミア感も含めて気に入っている。とにかく、私にとって時計はまったく急を要する買い物ではないのだ。
なぜ自分が時計を見に行くのかもわからないまま、私は引かれるままにカルティエに入店した。
一店目
フカフカのカーペットが敷き詰められた店内に、縮こまる私。そもそも、買いもしないのに高級店に入って店員さんに話しかけられるのが、私はニガテである。
でも入ってしまった以上、せっかくなのでタンクを見せてもらった。カルティエのタンクは、私が密かに憧れていた時計だ。
初めて腕に付けてみたタンクは、厳かな雰囲気を放っていた。長方形のフェイスと重いステンレスのバンドが、シャープだけど高貴だ。思ったとおり、とても格好よかった。
ひととおり堪能したあと、後ろ髪を引かれる思いで店を出た。
二店目
次に連れていかれたのは、グランドセイコー。ここでは、恰幅のいい男性店員が次々と商品を出し、試着させてくれた。ずらりと並んだ時計には、それぞれ細かい違いがあるらしい。
チタン製で軽かったり、文字盤がシェルで七色に光ったり、機械式で厚みがあったり。よく観察すると、確かに違う。なるほど、興味深い。
ダイヤがついた可愛らしい時計もあったけど、私が好きなのはやはりシンプルで少々無骨な雰囲気のものだった。グランドセイコーらしい、精密なデザイン。
店員さんは私が気に入ったタイプの型番を紙にメモして渡してくれた。親切な方だった。
三店目
最後に覗いたのは、シャネルのブース。シャネルも私が憧れるブランドだ。でも時計は見たことがなかった。
するとガラスケースの中に、圧倒的に輝く芸術作品があった。ボーイフレンドというライン。
要らないものをすべて削ぎ落とした、シンプルなデザイン。なのに、今日見てきたどれよりも華やかだ。
ああ、これがシャネルの魅力だな、と思った。私が惹かれた時計の中では一番高価だったけど、納得の価格だ。
すでに相当疲れていた私には、もう試着する元気が残っておらず、早々にその場を後にしてしまった。でもシャネルの時計の輝きは、私に強いインパクトを残した。
カルティエに入るとき、冷やかしで高級店に入るのが苦手なことを話すと、相方はこう言った。高級なものは、買う割合など20人に1人くらいだから気にしなくていい。お店の人もそのつもりでいる、と。
その言葉に、妙に納得した。確かにどのお店でも丁寧に対応してくれ、快く見せてくれた。自分ひとりなら行かないような場所に、こうやって相方が連れていってくれるのは面白い。
高価な品に触れると、作り手の甚大な手間と、細部までのこだわりがわかる。パワーを感じる。
物欲だと言われてしまえばそれまでだけど、100万円分のパワーを身につけることで日々を頑張れるなら、有意義な出費といえるだろう。
この日は、時計を購入することなくお店巡りを終えた。でもいつか、私の手首にもパワーを纏ってみたいと思う。